「花粉症に対して１回打てば、そのシーズンずっと抑えられる注射があるそうですが？」時々患者さんから尋ねられる事があります。
これは、前回お話したステロイド、それも強力で長時間持続するように懸濁液になっている薬を筋肉注射するものです。
前回お話したように、ステロイドの全身投与は怖い副作用がたくさんあります。糖尿病に胃潰瘍、特に若い人のステロイド胃潰瘍は急激に胃に穴が開いて、緊急手術を要するような事も多いです。大腿骨頭壊死、これは大腿骨の股関節側の端の骨頭が死んで溶けてしまう病気ですが、手術で人工関節に換えなくてはならなくなります。ステロイド白内障も高率に見られます。女の人では生理が止まってしまいます。
ステロイドを使わなければ命に係わるような病気や、眼科でも失明につながるような病気に対してステロイドの内服や注射を使う事はありますが、これはそれによって得られる患者さんのメリットの方が副作用の危険より上回っているから使うのです。花粉症では副作用の危険の方が明らかに上回っているので良識有る医師なら絶対やりません。
耳鼻咽喉科学会では、花粉症に対するステロイド注射をしないように警告していますが、無視しているのか知らないのか、いまだにこの注射をする医療機関があるようですね。確かに打てば即効性あり良く効きますから、口コミで評判広まるでしょうし経営的には良いでしょう。まさか利益優先で、患者さんの体の事などどうでも良いと思っているとは思いたくはないのですが。
以前、プロ野球の松坂投手が「今年は花粉症の注射をしたから大丈夫」とかニュースで話していました。あの人達は花粉症で成績下がったらおまんまの食い上げですから、副作用の危険性は聞いても、それでも構わないからと打ってもらったのかも知れませんが、大腿骨頭壊死なんかになったら、それこそ選手生命終わりだと思うんですけどね。全国ニュースでああいう報道がされると一般の人に対する影響大きいですよね。
私は、どんな事情があっても花粉症に対してあの注射はしない方が良いと思います。